フリーランスと個人事業主は何が違う?法人との区別と合わせてご紹介

にしみねひろこ

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2020.12.11
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「フリーランス」と「個人事業主」は、言い方が違うだけで同じと思っていませんか?

しかし実はフリーランスは”一人社長でスキルを活用し収入を得る者”、個人事業主は”税務上の区分”と、まったく種類が違います。また運営形態も個人事業主のほかに法人という選択肢もあります。

ではフリーランスと個人事業主は、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

またフリーランスは個人事業主と法人、どちらを選ぶべきなのでしょうか?本記事では、独立して働き始める際のよくある疑問について解説します。


▼ 目次
1. 「フリーランス」と「個人事業主」はどう違う?
1-1. フリーランスは独立して仕事をする人
1-2. 個人事業主は税務上の区分、法人も選択可能
2. フリーランスは「個人事業主」「法人」どちらを選ぶべき?
2-1. 個人事業主と法人の違い
2-2. 個人事業主と法人の選び方
3. 個人事業主、法人になる方法
3-1. 個人事業主になる手続き
3-2. 法人になる手続き
4. まとめ


 

「フリーランス」と「個人事業主」はどう違う?

「フリーランス」と「個人事業主」はどう違う?

働き方の多様化で、会社に属さず個人で仕事を請け負う人が増えています。こういった人はよく「フリーランス」とも「個人事業主」とも名乗っていますが、両者には明確な違いがあります。
 

フリーランスは独立して仕事をする人

フリーランスの定義は、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」です。

参照:経済産業省 フリーランスの定義について

案件ごとの業務委託契約が主流で、本業で会社員をしながら休日などに副業で働くフリーランスもいます。Webデザイナーやライター、カメラマン、コンサルタントなどに多い傾向があります。

内閣官房の2020年の調査によると、日本国内のフリーランスの数は462万人(本業フリーランス214万人、副業フリーランス248万人)と試算されています。

年齢構成では40代以上が全体の7割を占めています(内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」)。
 

個人事業主は税務上の区分、法人も選択可能

個人事業主とは、株式会社や合同会社といった法人を設立せずに個人で事業を行う人のことです。税務署に開業届を出すことで認定される、税務上の所得区分の一つです。

このようにフリーランスと個人事業主はそもそも種類が違うため、「フリーランスで個人事業主」も可能です。また個人事業主以外に、法人を選択できます。

クライアントから「法人ですか?個人ですか?」と聞かれた場合、法人を設立していれば「法人」、開業届を出していれば「個人」と答えましょう。
 
 

フリーランスは「個人事業主」「法人」どちらを選ぶべき?

フリーランスは「個人事業主」「法人」どちらを選ぶべき?

独立してフリーランスになる際、「個人事業主」と「法人」のどちらになるべきか迷う方もいるでしょう。

両者には次のように設立手続きや税金などに大きな違いがありますので、これらを考慮してどちらにするかを考えましょう。
 

個人事業主と法人の違い

個人事業主と法人の主な違いは以下の通りです。

  

  

個人事業主
設立手続き 開業届の提出のみ。無料。
税金 所得税。赤字の場合、課税なし。
経費 事業に関する出費を経費にできる。
社会保険 国民健康保険と国民年金。
社会的信用力 開業届けを提出すれば誰でもなれるため、法人より低い。
資金調達・助成金 大きな違いはないが、社会的信用力が影響する場合あり。
法人
設立手続き 書類作成と登記申請が必要。時間も費用もかかる。
税金 法人税。赤字でも法人住民税を納めなくてはいけない。
経費 事業に関する出費を経費にできる。個人事業主より経費が認められる幅が広い。
社会保険 健康保険と厚生年金。国民健康保険より手厚い。
社会的信用力 設立・運営が法律に基づいて行われるため、個人事業主より高い。
資金調達・助成金 大きな違いはないが、社会的信用力が影響する場合があり、融資を受けやすい傾向も。
設立手続き

個人事業主には、税務署に開業届を出すだけでなれます。難しい記入項目や必要書類もほとんどなく費用もかからないため、手続きは非常に簡単です。

一方で法人を設立するためには、法人の種類に合わせた書類作成と登記申請が必要です。登記の審査に1週間〜10日程度かかるため、書類の準備から合わせると設立までに2週間〜1ヶ月程度を要します。

役員の変更や移転をした場合には、その度に登記をしなければいけません。また登録免許税や定款認証代などの費用もかかります(株式会社の場合は25万円程度)。

法人設立の手続きの流れは「法人になる手続き」でご説明します。
 

税金

個人事業主と法人では支払う税金の種類が異なります。その中でも違いが大きいのは「所得税」と「法人税」です。

個人事業主は所得に対して「所得税」が課されます。

所得税は累進課税のため、所得が少ないうちは税金が低くすみます。ただし所得があがるほど税率は高くなり、最高で45%にもなります(参考:国税庁「所得税の税率」)。

赤字のときは課税されません。

税務申告の面では、会計ソフトを使えば比較的簡単に帳簿付けと確定申告書類が作成できるため、負担は大きくありません。

一方で法人には「法人税」が課されます。

税率はほぼ一律のため、個人事業主よりも税額が低くなることがあります(参考:国税庁「法人税の税率」)。

ただ法人の場合、赤字でも法人住民税は納めなければいけません。

また法人税の確定申告はまず決算を終わらせる必要があり、書類作成など非常に複雑で手間がかかります。

そのため税理士に依頼する会社が多い傾向にあります。決算申告だけを税理士に依頼した場合、会社の規模にもよりますが一般的には15〜25万円程度の費用がかかります。
 

経費

個人事業主も法人も、交通費や通信費、家賃など、事業に関するさまざまな出費を経費にできます。ただし法人の方が経費として認められる幅が広いという特徴があります。

たとえば出張手当は個人事業主では原則として経費にできませんが、法人では規定を策定すれば経費にできます。
 

社会保険

個人事業主は特定の会社との雇用関係がないため、会社員が加入するような健康保険や厚生年金は利用できません。

そのため国民健康保険や家族が働く会社の健康保険被扶養者、国民年金などから選択します。

 

法人の場合は、法人の健康保険と厚生年金に加入できます。

一般的に会社の健康保険は国民健康保険に比べて支援が手厚く、厚生年金も国民年金だけのケースに比べて将来の年金受取額が高くなります。ただし社会保険料はかかります。
 

社会的信用力

個人事業主は開業届を出せば誰でも簡単になれますが、法人は設立・運営が法律に基づいて行われるため、個人事業主に比べて社会的信用力は高いといえます。

クライアントから見ても法人の方が安心感はあるでしょう。そのためビジネスチャンスをつかみやすいなど有利な側面があります。
 

資金調達・助成金

助成金や補助金については、法人だけでなく個人事業主も利用できるものが多く、大きな違いはありません。

資金調達については、個人事業主も融資は受けられますが、法人の方が財産も厳格に管理されており、社会的信用力はあると判断されやすいでしょう。

個人事業主も融資は受けられますが、投資家からの出資やクラウドファンディングの一部は対象外です。

また事業に失敗し負債を抱えてしまった場合、個人事業主は自らその責任をすべて背負わなければいけません。法人の場合は原則として責任は出資額の範囲にとどまるため、個人の財産を守れます。
 

個人事業主と法人の選び方

ここまでご説明したように、個人事業主と法人には手続きや信用力などに大きな違いがあります。

ただし、法人は設立までが面倒です。手っ取り早く独立したいという場合には個人事業主の方が良いでしょう。

なお個人事業主と法人は、途中で変更が可能です。そこで個人事業主として独立し、売上が拡大して法人化した方が税金などの面でメリットが大きいと判断できた時点で法人化(法人成り)するケースは少なくありません。

筆者の経験上、個人事業主だからといって契約ができないなど、仕事上で不利になったことはありません。

ライターやデザイナーなどのクリエイターは、最初から大きな売上が見込めるといった場合でない限り、手間と費用の面からみても個人事業主からスタートするのがよいのではないでしょうか。

ご自分にはどちらが適しているか判断がつかない場合、また法人の中でも株式会社や合同会社などどの形態を選ぶべきかわからない場合は、税理士や司法書士への相談も検討してみてください。
 
 

個人事業主、法人になる方法

個人事業主、法人になる方法

個人事業主または法人になるためには、税務署への届出など各種手続きが必要です。ここではそれぞれの大まかな流れをご説明します。
 

個人事業主になる手続き

個人事業主になるには、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を出す必要があります。

税務署の窓口で用紙をもらうか、国税庁のホームページからダウンロードして記入し、本人確認書類とともに納税地を管轄する税務署に提出します。提出期限は原則として事業開始から1ヶ月です。

事業運営上、必要になることもあるので開業届の控えは必ずもらっておきましょう。

また個人事業主は青色申告で確定申告すれば、最大65万円の特別控除が受けられるため、節税につながります。

青色申告をするためには税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。開業届と一緒に提出しておきましょう。

 

法人になる手続き

法人には株式会社や合同会社などいくつかの形態があります。ここでは利用が多い株式会社の設立(発起設立)の流れを簡単にご紹介します。
 

法人設立”前”の主な手続き

 

1.会社の基本事項の決定(社名、事業目的、本店所在地、資本金など)

2.基本事項をもとに定款、登記書類を作成

3.公証人による定款の認証

4.発起人に資本金の払い込み

5.法務局へ登記申請

 

法人設立”後”の主な手続き

 

<税金関連>税務署・役所に届出

<社会保険関連>年金事務所に届出

<労働・雇用保険関連>労働基準監督署、ハローワークに届出

<許認可関連>都道府県や保健所に届出

 

このほかにも資産の移動や個人事業の廃業、銀行口座の名義変更・開設など細かな手続きがあり、かなり手間がかかります。また手続きにはそれぞれ期限もあります。

一人でやるには負担が大きくミスも心配ですので、税理士など専門家への相談も検討しましょう。

なお登記に必要な書類は法務局のホームページから入手できます。
 
 

まとめ

フリーランスとして活動する人や副業をする人が増え、最初は小遣い稼ぎのつもりだった人が個人事業主になり、さらに個人事業主から法人になるケースも珍しくなくなりました。

この機会にご自分の事業をよく見直し、運営形態の変更も含めて今後のあり方をよく考えてみてくださいね。
 

にしみねひろこ
この記事を書いた人

にしみねひろこ

フリーライター。6年半の報道記者経験を活かして、インタビューや各種コラム、取材、企画・広告記事、プレスリリースなどを執筆している。主な執筆分野は法律、医療、経済、人事、子育て・生活。
 
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