個人事業主が知るべき節税につながる所得控除の有効活用術

中山慎吾

中山慎吾

2020.09.30
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個人事業主の方は、確定申告シーズンを迎えると税金対策に頭を悩ませることが多いと思います。

一般的には経費を増やすと考えがちですが、必要経費になるものは事業に関連している支出に限られていますのでむやみに経費を計上するのはNGですし、所得だけを下げても税金対策としては十分とはいえません。

税額を決定するのは、所得から所得控除を差し引いた課税所得なので、所得控除を有効に活用できれば節税にもつながります。

税理士としておすすめしたいのは、節税に加え、貯蓄・貸付ができ、破綻リスクも低い小規模企業共済への加入です。

本記事では、具体例を出しながら所得控除の有効活用術をお伝えします。


▼ 目次
1. 所得控除と税額控除
2. 申告額をコントロールしやすい所得控除
3. 所得控除の例
3-1. 支払額に限度はないが一定の支払額を超えると控除額に上限がある所得控除の例
3-2. 支払額に限度はあるが支払額全額が控除される所得控除の例
4. 所得控除を有効活用する具体例
5. まとめ


 
 

所得控除と税額控除

基本的なことですが、控除には「所得控除」と「税額控除」の2種類があります。

売上(収入)-必要経費=所得
所得-「所得控除」=課税所得
課税所得×税率=税額
税額-「税額控除」=納税額

税額控除は、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)に代表されるように、課税所得に対して算出された税額から直接控除されますので節税効果は高いのですが、住宅の購入などは人生の一大イベントとなるのでそうそう簡単に使えるものではないと思います。

税額控除が使えなければ、所得控除を最大限利用して課税所得を下げることから始めましょう。

課税所得を下げるためには、所得から差し引く所得控除額を積み上げていく必要がありますが、どうすれば所得控除額を積み上げることができるでしょうか?

所得控除は、「この部分に税金を掛けたらかわいそう」という趣旨のもと、収入から必要経費を差し引いた所得額から控除します。

所得控除の種類は、「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」「生命保険料控除」「地震保険料控除」「寡婦、寡夫控除」「勤労学生控除」「障害者控除」「配偶者控除」「配偶者特別控除」「扶養控除」「基礎控除」「雑損控除」「医療費控除」「寄付金控除」の14種類です。

 
 

申告額をコントロールしやすい所得控除

人ではなく支出に対して適用される「生命保険料控除」、「地震保険料控除」、「医療費控除」、「小規模企業等掛金控除」、ふるさと納税に代表される「寄付金控除」などは申告額をコントロールしやすい控除なので、これらの控除額を増やせば節税につながります。

一方で、「基礎控除」「配偶者控除」「配偶者特別控除」「扶養控除」などは、人的な要因による控除となります。申告する方のご家族構成や年齢でも変わるため申告額をコントロールすることは難しいといえます。

 
 

所得控除の例

支払額に限度はないが一定の支払額を超えると控除額に上限がある所得控除の例

「生命保険料控除」の場合は、民間の保険会社に支払う年間保険料の額に対して控除額が決定します。保険料の支払額に上限はありませんが、控除額は一定の計算式のもと算出され、かつ上限があります。

生命保険料控除は、平成24年1月1日以降に契約を締結した新生命保険料と平成23年12月31日以前に契約を締結した旧生命保険料に分類され、各保険の控除額上限は以下の通りです。

なお、保険期間が5年未満の生命保険などの中には、控除の対象とならないものもありますのでご注意ください。

新生命保険料・新個人年金保険料・介護医療保険料

年間の支払保険料等 控除額
20,000円以下 支払保険料の全額
20,000円超 40,000円以下 支払保険料×1/2+10,000円
40,000円超 80,000円以下 支払保険料×1/4+20,000円
80,000円超 一律40,000円


年間の支払保険料等と控除額
20,000円以下 支払保険料の全額
20,000円超 40,000円以下 支払保険料×1/2+10,000円
40,000円超 80,000円以下 支払保険料×1/4+20,000円
80,000円超 一律40,000円

旧生命保険料・旧個人年金保険料

年間の支払保険料等 控除額
25,000円以下 支払保険料の全額
25,000円超 50,000円以下 支払保険料×1/2+12,500円
50,000円超 100,000円以下 支払保険料×1/4+25,000円
100,000円超 一律50,000円


年間の支払保険料等と控除額
25,000円以下 支払保険料の全額
25,000円超 50,000円以下 支払保険料×1/2+12,500円
50,000円超 100,000円以下 支払保険料×1/4+25,000円
100,000円超 一律50,000円

各保険料に対する控除額の上限は表の通りですが、新旧保険料を合せた控除額の上限は12万円です。仮に、月々5万円の保険料を効果的に振り分けた場合でも控除額は12万円ということになります。
 
 

支払額に限度はあるが支払額全額が控除される所得控除の例

支払額に限度はあるものの、その年に支払った掛金の全額が控除できる「小規模企業共済等掛金控除」は、「社会保険料控除」に近い所得控除です。

「小規模企業共済等掛金控除」は、次の3つで構成されています

・小規模企業共済法によって定められる、独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ共済契約の掛金。具体的には中小企業基盤整備機構の運営する小規模企業共済などがこれに該当します。
 

・確定拠出年金法に規定する、企業型年金加入者の掛金又は個人型年金加入者の掛金。いわゆる確定拠出年金やiDeCoなどの掛金がこれに該当します。
 

・地方公共団体が実施する、心身障害者扶養共済制度の掛金。

その中で、 「小規模企業共済」は現役世代の万が一に備えるという側面が強く現われており、「個人型確定拠出年金」は老後のための資産形成という側面が強くなっています。

また、心身障害者共済制度は、心身障害者を扶養している保護者の方々が相互扶助の精神に基づいて任意に加入する制度です。

加入者(保護者)が毎月一定の掛金を納めることで、加入者が亡くなったとき又は重度障害になった場合に、障害のある方に対し一定額の年金を一生涯支給します。

ここでは3つのうち、主に小規模企業共済と個人型確定拠出年金の特徴について説明します。
小規模企業共済と確定拠出年金の主な違いは下記の表を参照してください。

       

小規模企業共済 個人型確定拠出年金
掛金の範囲 月額1,000円から70,000円
500円単位で調整可能
月額5,000円から68,000円
(専業主婦・主夫、企業年金の無い会社員は23,000円
1,000円単位で調整可能)
掛金の加減 一定の手続きを経て変更可能 年1回変更可能
受取条件 退職や廃業をしたときなど 原則60歳に達したとき
受取形式 一定の条件により一時払い分割払い、あるいはそれらの併用 一定の条件により一時払い分割払い、あるいはそれらの併用
予定利率 1.0% 運用方法により異なる
資金貸付制度 納付した掛金に応じて資金の借り入れが可能 なし
手数料 なし 加入時や運用期間中など所定の時期に発生
解約の可否 可能 原則不可


小規模企業共済
掛金の範囲 月額1,000円から70,000円
500円単位で調整可能
掛金の加減 一定の手続きを経て変更可能
受取条件 退職や廃業をしたときなど
受取形式 一定の条件により一時払い分割払い、あるいはそれらの併用
予定利率 1.0%
資金貸付制度 納付した掛金に応じて資金の借り入れが可能
手数料 なし
解約の可否 可能
個人型確定拠出年金
掛金の範囲 月額5,000円から68,000円
(専業主婦・主夫、企業年金の無い会社員は23,000円
1,000円単位で調整可能
掛金の加減 年1回変更可能
受取条件 原則60歳に達したとき
受取形式 一定の条件により一時払い分割払い、あるいはそれらの併用
予定利率 運用方法により異なる
資金貸付制度 なし
手数料 加入時や運用期間中など所定の時期に発生
解約の可否 原則不可

理想は、小規模企業共済と個人型確定拠出年金の両者を併用したいところですが、ご自身の状況を考えながらどちらか一方に加入しておき、余裕が出てきたころに追加でもう一方に加入するというのも良いでしょう。

個人的には、小規模企業共済への加入を優先することをお勧めします。

理由は、「貯蓄・貸付・節税」の機能にプラスして、運営の主体が政府系の独立行政法人「中小企業基盤整備機構」なので、破綻リスクが低く安全性が高いと言えるからです。

小規模企業共済について

小規模企業共済は、一言でいえば事業主や中小企業経営者向けの「退職金積立制度」です。加入要件は業種により異なりますが、5~20人以下の中小企業役員や個人事業主等であれば加入できます。

掛金の納付は、月払い・半年払い・年払いですが、来年分を前納一括払いも可能なので、今年は黒字額が大きいといった場合にも活用できます。

また、運用期間中の運用益は非課税となります。共済金は、退職・廃業時に受取可能で満期や満額はありません。共済金の受け取り方は、「一括」「分割」「一括と分割の併用」が可能です。

一括で受け取った場合は退職所得、分割で受け取った場合は公的年金等の雑所得扱いになりますので税負担が軽減されます。

万一のために貸付制度も利用できます。

貸付制度には、一般貸付・緊急経営安定貸付・疾病災害時貸付などがありますが、掛金の納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で、事業資金等を借り入れることができます。

なお、廃業や退任に該当しない解約の場合や短期での解約は、解約手当金が掛金納付額を下回る、あるいは受取れない場合があるので注意が必要です。

また、加入には必要書類の提出や一定の審査があり審査期間も要しますので、すぐには加入できません。審査の結果、加入資格に該当せず加入できない場合もあります。

小規模企業共済の詳細については、下記URLをご参照ください。
> 小規模企業共済とは
 
 

所得控除を有効活用する具体例

では、同じ支出で生命保険料控除だけの場合と小規模企業共済等掛金控除を併用した場合で簡単にシミュレーションしてみましょう。月々の支出は6万円として、所得税の税率は20%とします。

       

生命保険料控除 +小規模企業共済等掛金控除
支出の内訳 新生命保険 月々2万円
新個人年金保険 月々2万円
介護医療保険 月々2万円
新生命保険 月々1万円
新個人年金保険 月々1万円
介護医療保険 月々1万円
小規模企業共済 月々3万円
所得控除額 新生命保険控除分 4万円
新個人年金保険控除分 4万円
介護医療保険控除分 4万円

控除合計額 12万円

新生命保険控除分 4万円
新個人年金保険控除分 4万円
介護医療保険控除分 4万円
小規模企業共済控除分 36万円

控除合計額 48万円

所得税節税額 24,000円 96,000円


生命保険料控除
支出の内訳 新生命保険 月々2万円
新個人年金保険 月々2万円
介護医療保険 月々2万円
所得控除額 新生命保険控除分 4万円
新個人年金保険控除分 4万円
介護医療保険控除分 4万円
小規模企業共済控除分 36万円

控除合計額 48万円

所得税節税額 24,000円
+小規模企業共済等掛金控除
支出の内訳 新生命保険 月々1万円
新個人年金保険 月々1万円
介護医療保険 月々1万円
小規模企業共済 月々3万円
所得控除額 新生命保険控除分 4万円
新個人年金保険控除分 4万円
介護医療保険控除分 4万円

控除合計額 12万円

所得税節税額 96,000円

上記のように、支払先を変えるだけで72,000円の節税効果が得られます。

また、確定申告時には実感できませんが、個人住民税も軽減できます。

個人住民税の所得控除は、生命保険料控除や地震保険料控除についての計算方法が異なる他、各種の人的な控除額がやや少ない金額になっていますが、税額は算出された課税所得に対して約10%なので、所得税と住民税を合わせた軽減額は、約113,000円となります。
 
 

まとめ

使い方によって節税効果のある所得控除ですが、有効活用するために一番大切なのは、早くから動き始めることです。

小規模企業共済の場合、申込から加入手続きが完了するまで早くても40日程度を要しますので、申込に必要な書類を集めるなどの準備期間を含め計画的に行動しましょう。
 

中山慎吾
この記事を書いた人

中山慎吾

トランス税理士法人 代表税理士
1978生まれ 神奈川県横浜市出身
東京税理士会所属(登録番号 第 140269号)
明治大学大学院グローバルビジネス研究科を修了しMBA取得
大学卒業後、大手証券会社にて資産運用のコンサルティング業務に従事
その後、資産運用会社を共同で創業、現在は税理士として個人向けの税務を中心に顧客をサポートしています。
 

主な保有資格:税理士、CFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士
趣味:マンガ収集(5,000冊以上)
 

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